<キーワード>
湾岸諸国・外国人労働者・共生と分断・地域研究・グローバル化
<研究背景>
グローバリゼーションの時代、湾岸諸国は新たな注目を集めています。
巨額のオイルマネーを使ってインフラ整備を行った後、経済の脱石油化の先端産業を推進するなど、その躍進はとどまる様子がありません。
一方、湾岸諸国はもともと人口が希少であり、そうした経済的躍進を支えているのは2,200万人に及ぶ外国人労働者です。
全人口にしめる外国人の割合も増加し、最も割合が高い国UAEやカタルにいたっては8割超を占めています。
UAEのドバイなど一部の都市では、外国人労働者の国籍も多様化し、コスモポリタンな都市空間が出現しています。
ところが、外国人の受け入れに関する議論では、湾岸諸国の経験について詳しく言及されることは稀です。
湾岸諸国の外国人受け入れ方針は基本的に短期契約労働者としてです。
欧米諸国と違い、長期滞在しても市民権を与えず、ホスト社会との統合を促す政策も取られていません。
よって、湾岸諸国で暮らす外国人は声なき労働者とみなされ、外国人労働者に対する人権侵害をテーマとした研究を除き、彼らについてのフィールド調査の数も僅かです。
このような状況のもと、私たちは「ドバイ移民社会研究会」(2008~10年度)を組織し、UAE・フィリピン両国の政策と在UAEフィリピン人労働者の実態を現地で調査してきました。
その結果、UAEでは職場や公共空間などにおけるフィリピン人同士の日常的な交流活動を通じてフィリピン人としてのアイデンティティが強まる傾向がみられる一方、
階層や宗教が異なる場合は交流の機会が極めて限定的であることが明らかになりました。
さらに、他の国籍の外国人労働者との交流は全体としては少ないけれども、建設労働者や家事労働者などの間では連帯する意識もみられ、
宗教施設や学校を通じた交流の空間も存在していることがわかりました。
グローバリゼーションが加速する中で、外国人労働者の受け入れを制度化しようとするために世界中の「ベスト・プラクティス」事例を採用する動きが進んでいます。
世界最大の契約労働者の受け入れ地域である湾岸諸国をこの議論の中で無視することはできません。
今必要なことは、人口の多数を占める外国人労働者の主体性や外国人労働者間の関係、あるいは外国人労働者と受け入れ国の自国民との関係についての実態に基づいた分析です。
<研究対象国>
これまでの研究蓄積や実現可能性の観点から、受け入れ国としてUAE、送り出し国としてフィリピンを主軸としながら、他国の状況も比較検討し、 湾岸地域における、より一般的な共生・分断のモデルを構築します。 受け入れ国としては、UAEと同様に外国人率が高いカタルと、約800万人という域内最大数の外国人を擁するサウジアラビアを、送り出し国としては、湾岸諸国における最大の送り出し国であり、 湾岸との歴史的なつながりも深いインドと、逆に湾岸への労働者送り出しの新興国であるインドネシアを設定します。 湾岸諸国には欧米やアラブ諸国などの出身者もいますが、それらの地域出身者の状況はフィリピン人の置かれている状況と大きく異なるため、本研究における直接的な比較対象国としないことにします。
<具体的な研究テーマ>
具体的テーマとして次の4つの論点を取り上げます。この際、国籍、階層、民族、宗教、ジェンダーなど複数の軸について立体的に考察します。
テーマ1.湾岸諸国における外国人労働者政策の動向
湾岸諸国は近年、底辺労働者に対する劣悪な待遇、家事労働者に対する人権侵害等に対して、国際社会や送り出し国から改善を求める圧力をかけられるようになりました。
このような国際環境、そして「多外国人国家」であるという現実は湾岸諸国の外国人労働者政策にどう影響しているのかを探ります。
テーマ2.湾岸諸国における自国民と外国人の間の共生と分断
自国民と外国人は職場や生活空間を共用するにもかかわらず、実質的な交流はあまり多くありません。双方は互いをどのように認識し、どのような状況で共生、あるいは分断するのかを解明します。
テーマ3.湾岸諸国における国籍が異なる外国人の間の共生と分断
国籍が異なる外国人同士の交流は少なく、国籍による階層化もみられますが、共通の目的のために行動を共にすることもあります。外国人同士はいかなる状況で共生し、また分断するのかを検討します。
テーマ4.湾岸諸国における同じ国籍の外国人の間の共生と分断
同じ国籍の外国人はゆるやかにまとまっていますが、階層、宗教、民族によってサブグループ化している状況もあります。彼らはどのような状況で共生し、また分断するのかを明らかにしていきます。